松山地方裁判所 昭和24年(行)53号 判決
原告 太陽石油株式会社
被告 国
右代表者 法務総裁
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告が原告会社に対し、昭和二十三年一月十日附でなした戦時補償特別税の課税行為は、無効なることを確認す、訴訟費用は被告の負担とす」との判決を求め、その請求原因として、原告は戦時補償特別措置法(以下法と称す)の施行に際し同法に基いて申告する義務があるか、否かについて疑のある金額約百万円につき、「申告の金額は終戦直前の受領か、終戦直後の受領か調査未了だが一応申告する」旨附記して、申告書を八幡浜税務署長に提出したが、其の後右申告の金額は、戦時補償特別税の課税対象とならないことが判明したので、同税務署長に対し、数回右申告の取消を通告したが、同税務署長は右申告を基礎として、昭和二十三年一月十日附通知書を以て、原告に対する戦時補償特別税の課税価格の更正決定を為し、同通知書を原告に送達してきた。原告は即日不服申立をなしたにも拘らず、審査決定を遷延し、他方原告の工場等を差押し、不当課税の納付を強要している。然しながら、右更正決定は課税対象が全く存在しないにも拘らずなされた処分であるから、無効である。依つて、右処分の無効の確認を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の主張事実に対しては、被告主張の如き物品給付契約は、昭和二十年八月十五日以前には存在しなかつたのであり、仮りに、被告主張のような契約が存在し、且つこれの給付が完了しているとしても、右契約に基く給付行為は昭和二十年八月十五日以降に完了したものであるから(弁済期は同日以後であつて)課税の対象とならないと述べたほか、原告の主張に反する部分は凡て否認した。(立証省略)
被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の請求原因事実中、原告が法施行に際し、八幡浜税務署長に対し金額約百万円につき「申告の金額は終戦直前の受領か、終戦直後の受領か調査未了だが一応申告する」旨を附記して同法に基く申告書を提出したこと、その後右申告の金額が課税の対象とならないとて、申告の取消を通告してきたこと、八幡浜税務署長が昭和二十三年一月十日附通知書を以て、戦時補償特別税の課税価格の更正決定を為し同通知書を原告に送達したこと、原告主張の如き差押が行われたこと、は認めるがその余は否認し、右取消通知は無効であると述べ更に次の通り主張した。一、原告の請求は主張自体失当である。即ち、原告は、八幡浜税務署長のなした本件課税価格更正処分は、課税対象がないに拘らず、課税価格を認定してなされたものであるから無効であると主張するが、仮りに原告主張の如く、課税対象が存在しないとしても、それは畢竟前記更正処分は存在しない戦時補償請求権を誤つて存在すると認定した違法があるというに帰着するのであつて、斯様な違法があるとしても、そのため該処分が無効になるのではなく、唯取消の原因となるにすぎないから、右更生処分の無効の確認を求める原告の請求はそれ自体失当であつて、棄却されるべきである。二、まして本件課税の対象は存在するから、前記更正処分には何等違法の点はない。即ち、原告は政府の一機関たる第三海軍燃料廠と、昭和二十年八月十五日以前に、原告において別表一、掲記の各給付をなし同廠より、右給付完了後直ちに別表一、掲記の各代金の支払をうける趣旨の八件の契約を締結し、同日以前にその全部の給付を完了した。(従つて弁済期は同日以前ということになる。)しかして、その代金合計百七万六千七百八十二円九十九銭は同月二十五日から同年九月七日までの間に同廠から原告に完済された。右は原告の政府に対する「弁済期が昭和二十年八月十五日以前で、同日以前に弁済がなかつた請求権」について、法施行前に、決済されたものに外ならないから、法第一条第一項第一号、第二条により原告に戦時補償特別税の納税義務あることは明白である。仮りに右給付契約に基く原告の給付が昭和二十年八月十五日以後に行われたとしても即ち弁済期が同日後であるとしても給付契約が同日以前に成立しているから、同法第一条、第一項、第二号、第二条により原告には前記特別税の納税義務があり、従つて本件更正処分は適法である。かつ、本件給付契約が昭和二十年八月十五日以前に存在したものであることは、その取扱品が軍需品である関係上、同日以後に契約する筈もなく、また同日以後軍需品の供給をうける理由もないことから見ても明らかである。仍つて何れにしても原告の請求は理由がないから棄却さるべきである、と述べた。(立証省略)
三、理 由
(一) 被告は原告の請求がそれ自体失当であると主張するので、この点について判断すると、法に規定する課税の対象が全然無いにも拘らず、課税対象ありと誤認して課税価格を決定する行政処分は、重大な瑕疵があるといわねばならず、また斯様な処分も取消されるまでは、有効であつて、一般行政客体を拘束するということは一般法意識が到底許さないところであるから、斯様な行政処分は無効であると解すべきところ、原告は課税対象の不存在を主張して、その課税行為の無効の確認を求めるものであるから、請求自体失当であるというのは当らない。
(二) 次に課税対象の存否につき判断すると、
先ず乙第一号証の三、四、同第二、三号証同第四号証の二、三、同第五、六、七号証の各一、二同第八号証(但し、乙第一号証の三、同第二、三号証、同第四号証の二、同第五、六、七号証の各一、及び同第八号証の夫々下段領収証の部分を除く、以下同じ)は何れも証人中村良雄の供述により公文書であることが認められるから、真正に成立したものと推定すべきところ、(右推定を覆すべき反証はない)(イ)、証人中村良雄の供述、前顕乙第一号証の三、四同第四号証の二、三に弁論の全趣旨を綜合すれば、別表一、掲記の八件の各給付のうち(一)及び(四)の給付を原告が前記燃料廠に対してなし、同廠より原告に対し代金を支払う旨の各契約が少くとも昭和二十年八月十五日以前に成立したこと右各契約に基く原告の右給付の対価として、同廠より原告に対し昭和二十年八月二十八日頃別表一、の(一)、(四)掲記の各代金が夫々決済されたことを認めうる。右認定に反する原告代表者青木繁吉の供述部分は措信し難く甲第一号証の一、二、三によるも之を証人中村良雄の供述と対比するときは採つて以て右認定を左右するに足らず其の他これを覆すに足る証拠はない。次に証人中村良雄の供述乙第一号証の三、四同乙第二、三号証同第五、六、七号証の各一、二同第八号証及び弁論の全趣旨から同廠と、原告との間に原告が別表一、掲記の(二)(三)(五)(六)(七)(八)の各給付をなし、之に対し同廠が代金を支払う旨の各契約が成立し、右契約に基いて同廠から原告に対し夫々別表一、掲記の(二)(三)(四)(五)(六)(七)(八)の各代金が(二)(三)については、昭和二十年八月二十八日頃(五)については、同年同月二十五日頃(六)については同年同月二十九日頃、(七)(八)については同年九月七日頃決済されたことが認められる。而して右各契約の成立時期について考えるに、前示乙号各証と証人中村良雄の供述によれば、終戦後は前記燃料廠が物資を入れることがなかつたこと、泥油再生については、同廠と原告間に昭和二十年四、五月頃から終戦時まで交渉のあつたこと、松根油は戦争用の航空燃料をとる目的で、その精製に力がそゝがれたものであること、前記(五)の給付は泥油に関するものであり、(二)(三)(七)(八)の各給付は松根油に関するものであり、(六)の給付が松根油を入れるドラム罐の修理に関するものであることを認めることができるから、此等の事実を彼是考合すれば前記(二)(三)(五)(六)(七)(八)の右契約は少くとも昭和二十年八月十五日以前に成立していたことを推認することができ、原告代表者青木繁吉の供述中右認定に反する部分は措信し難く、証人伊藤喜六の証言其の他に依るも未だ以て右認定をくつがえすに足りない。(ロ)、次に証人中村良雄の供述によれば、業者に対する支払代金の決済は、業者が物品の納入その他の給付をなした上、支払請求書を提出すればこの支払請求のある以上、早急に支払われていたこと原告に対する支払も支払請求書に基いてなされたこと、物品を早く納入した者程早く支払請求をなしていたこと、が認められ、これらの事実から前顕八件の本件各契約の代金弁済期は一応物品の納入その他の給付をなせば、すぐ到来したものと推定せられる。(しかしてこれを覆す反証はない)而して本件各契約において、原告の各給付がいつなされたかというというに、証人中村良雄の供述によれば、終戦後燃料廠が品物を入れるということはなく、むしろ軍の所持するものは出来る限り、民間に放出するよう指令のあつたこと、終戦後は業者が一度に支払請求に殺到したため、業者が品物を納入してから、支払請求をなして支払をうけるまでには、相当の日時を要したこと、にも拘らず原告に対する支払の殆んどが昭和二十年八月中になされ、原告会社に対する最後の決済である別表一、の(七)(八)の代金でさえも昭和二十年九月七日には支払がなされ、それが戦時航空燃料の原料たる松根油精製に関する給付に対するものであることが認められる。此等の事実からして、原告の前示八件の契約に関する各給付は終戦時たる昭和二十年八月十五日前に、完了したものと推認することができ、原告代表者青木繁吉の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他にこれを覆すに足る反証はない。従つて亦該事実に前段認定の事実を綜合すれば、其の各弁済期も終戦時前であつたと認めるの外はない。
以上の如くであるから別表一、掲記の各契約に基く原告の政府(前顕燃料廠)に対する各代金請求権は何れも弁済期が昭和二十年八月十五日以前であつて、同日までに代金の決済がなく法施行日たる昭和二十一年十月三十日までに決済の終つたものというべきであるから、前記各代金請求権は法第一条第一項第一号第二条によつて課税対象となるものと謂うべく、原告に戦時補償特別税の納税義務あることは明らかであり、且原告が別表一、掲記の各代金額の決済を受けたことは前に認定したとおりであり、成立に争いのない甲第二号証によれば、別表二の如く本件更正決定がなされたことが認められるが、同表中(一)の課税価格は別表一の(一)(二)(三)の代金額の合算額の銭以下切捨てたもの別表二の(二)の課税価格は別表一の(四)の代金額を銭以下切捨てたもの、別表二の(三)の課税価格は別表一の(五)の代金額の銭以下切捨てたもの、別表二の(四)の課税価格は別表一の(七)(八)の代金額の合算額に夫々あたることは計数上明らかで本件課税価格の更正決定には、何等無効の瑕疵はないといわねばならない。仍て原告の請求は理由がないから失当として之を棄却することゝし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 加藤謙二 橘盛行 荻田健治郎)
(別紙省略)